★2024年7月19日更新 スティル・ライフ ~自分の生き方に暗中模索する「ぼく」と、すでに生き方を掴んだ「佐々井」の物語 【書評・文化・中編小説】

スティル・ライフ

はじめに

毎年、6月~7月、わたしは短編小説を書いている。一昨年は「植物図鑑の扱い方」なる短編、昨年は「三か月であることを実行し達成する到達点」やはり短編を書いた。(未発表)

わたしの書く小説のほとんどは短編小説だ。大量のブックレビューを書いた経験から推測すると、現在、小説の需要はとても限られていて、ほとんどがあまり知られていない作家の作品ばかリ。しかも、未だに小説といえば長編が横行する閉じられた世界観なのだ。

無事に発売までこぎつけた作品でも、書店等で長編小説を読者が手に取り、購入し、最後まで読んで頂くのはかなり難しい分野になっているのが実情だ。

有名大家の作品こそ、大々的にリリースされ、書店頭にもど~んと平積みされるが、今ではそういった作家も村上春樹氏ぐらいかもしれない。

村上春樹氏6年ぶりの短編小説が昨日発刊されたばかり。そうか・・・時はやはり短編に向いてきたか、と。わたしは自分の狙いがちょっとだけ当たった感を持ってほくそ笑んだのだ。

さて、今年も芥川賞の発表があったばかり。毎年綺羅星のごとく舞う新人作家の作品を真っ先に手に取る楽しみは計り知れない。そんな中、歴代ベストセラーで、わたしの最もおすすめする芥川賞作品の紹介をする。

スティル・ライフだ。作者は池澤夏樹氏。第98回芥川賞受賞作品である。この中編小説はこれまで2回読んでいたが、3回目を昨日の午後、一気に読み通した。この一気に読ませる、読者を物語の森に誘い出す上手さに舌を巻いた。

※スティル・ライフ導入から

~この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを受け入れる容器ではない~中略~大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一歩の距離をおいて並び立つ一つの世界の呼応と調和をはかることだ。

たとえば、星を見るとかして。

【スティル・ライフ・物語の背景】

● 登場人物は主人公「ぼく」と「ぼく」が圧倒された生き様を持つ年上の「佐々井」のふたりだけ

「ぼく」に「佐々井」という年上の男が持ちかけた、ある壮大な計画というか仕事。それは三か月間で達成する予定だ。

「ぼく」は宇宙や微粒子に詳しい魅力的な「佐々井」の申し出を、一つ返事で受ける。そこから「ぼく」の人生の経験が積まれてゆく。ただ、三か月という時間はとても短い。

※「佐々井」が「ぼく」に持ちかけた、ある壮大な計画が物語のすべてである。

ある日、「ぼく」の前に「佐々井」が現われてから、ぼくの世界を見る視線は変わって行った。

「ぼく」は彼が語る宇宙や微粒子の話に熱中する。「佐々井」が消えるように去ったあとも、「ぼく」は彼を、遥か彼方に光る微小な天体のように感じるのだ。

科学と文学の新しい親和を感じた部分だ。「佐々井」という男がバーで飲むウイスキーの氷の光の中から、数万回に一回の確率で現れる光を見つけようとしている姿は、きっと男性だったら、真似したくなるスタイルだ。

「ぼく」という主人公が探しているものは

※ 常々、「ぼく」が感じていたことを文中より拾う。

~寿命が千年ないのに、ぼくは何から手をつけていいのかわからなかった。

何をすればいいのだろう。仮に、とりあえず、今のところは、しばらくの間は、アルバイトでもして様子を見る。そういうことだ。

十年先に何をやっているかを今すぐに決めろというのはずいぶん理不尽な要求だと思って、「ぼく」は何も決めなかった~文中より

この物語は青春小説などではなく、社会派小説と言えるのではないか~それは佐々井の持つ壮大な計画から読み取ることができる

自分の生き方にある種の諦めを感じながらも、若者らしく飄々と振舞う「ぼく」と天涯孤独で星や宇宙や山を愛する「佐々井」という年上の男。

彼らが出会う場所は、染色工場だ。作業要員として扱われ、それでもそんな仕事に若干のやりがいを見出す「ぼく」。

そして、染色工場を辞めてしばらくして現れた「佐々井」。「ぼく」に手伝ってほしいと頼まれた、ある壮大な計画。

この物語の最大の山場は、このある壮大な計画を「佐々井」が「ぼく」に告白し、淡々と緻密な計算を元に「佐々井」の思惑通りに計画を達成させる場面だ。あまりにも静寂すぎて見事な光景が文中に広がる。

※ 壮大な計画のキーワード・・・公的横領 株式投資 時効 この3点。

読後感を語る

わたしが最初に読んだ当時は気づかなかった部分が、「佐々井」という男の生活スタイルだ。究極のミニマリスト。持ち物は登山用のナップザック2個。計画のために必要なPCは買ってからタクシーで運ぶ。

友達はいない。銀行口座は持たない。所定の場所に長く住まない。要するに今でいうノマドライフの実践者にどことなく似ている。

著者の池澤夏樹氏は、遥か先数十年後を見据えて「佐々井」という男を生み出したとしか思えない。

芥川賞作品を最後まで読んだことがない人におすすめの一作だ。どんなに素晴らしい賞を取った作品でも、あまりに長い長編とか、小難しい表現、言いたいことを煙に巻く文章が過ぎる作品は、最後まで読み切れないものだから。

どうぞ、「ぼく」と「佐々井」のある壮大な計画と三か月を一緒に体感してみて。

そして、たまに星を見るとかして・・・。

人生に必要なものは夢か安定か~結論はコミックにあり!【選書・サブカルチャー】

人生長くなると、だいたいどんなことでも乗り越えられるほど、経験の塊になるものだ。しかし、その悩みの渦中にいる時は想像を絶する辛さ。

わたしは、そんな時どうやってその悩みの渦から抜け出したのか?改めて思い出してみると、大好きな漫画=コミックに答えを見出していたのだ。

コミックは意外なほど、人生をつぶさに語り、見つめ、時には残酷に物事の現実を教え、しかし、最後にはほぼ問題の解決策を講じる。また、そうした作品がベストセラーになりやすい。

わたしと同世代のいい大人の男性が、座右の書がエースをねらえ だったりする。それは、たんに女子高校生のテニスに懸ける情熱物語だと思いきや、主人公ひろみを見出し育て上げる宗像コーチの男の生き方が世の男性たちの人生指南書となった時代もあった。

もう、語り出したら止まらないコミックの世界へようこそ。

エースをねらえ!

【もくじ】

1、コミックを読んで夢は叶うのか?

2、仕事運やチャンスをツカみたいのならコミックを読むべし!

3、世の中の色を見るのにもコミックは最適

4、まとめ 大人こそ、もっとコミックを読もうじゃないか

1、コミックを読んで夢は叶うのか?己の限界を超える方法

結論ですが、叶います。

コミック自体が夢や希望の塊。思い入れのある主人公のコミックから力を借りて、やる気溢れる主役となることが現実社会で可能だ。表現が変われば周りの見る目も変わる。その瞬間をとらえて行ければ、入試や面接、パフォーマンス、プレゼンなどなんでも思い通りに操れるのだ。

ちなみに、わたしの経験から。取り上げるコミックはいつもポケットにショパ(著・くらもちふさこ)だ。ピアニストを目指す女子高生の麻子と海外帰りの天才ピアニスト季晋が紡ぐ音楽成長ラブストーリー。

この作品が別冊マーガレットに連載されたのが、高校3年、偶然にも音大受験の真っただ中だった。毎月じりじりと進む二人の関係にやきもきしつつ何十回も読み返していた。

しかし、リアルな音大受験の様子、ピアノを弾くのは寝る時間以外は一日中だとか(それは、電車やバスに乗っていても、普通の教科の授業中でも常に膝には楽譜を置いて、音無し指動かし練習と暗譜をする)などの過激極まりない練習のやり方、しまいには、主人公の二人も、受験やコンクールなどの修羅場があり、まるで一緒に乗り越えようとしているかのような、錯覚まで起こすほど、一心同体のなくてはならないコミックになった。

受験は無事合格し入学した。新しく友達になった人ほぼ全員がこのコミック通りに受験を勝ち抜いてきたのだと後から知った。

な~んだ、やっぱりそうだよね(笑)みんな、藁緒もすがる思いだったから、不思議な指南書が出て来て救われたのだ。それがコミックだっただけ。

2、仕事運やチャンスを掴むのなら、スポーツ&ビジネスコミックを読むべし!

初めてのブックレビュー作品は、名作スラムダンクの井上雄彦氏のリアル(全14巻・未完)だった。まだ駆け出しのブックレビューライターに、初回から長編作を書かせてくれた編集者には本当に感謝が尽きない。

リアルは、車いすバスケットに出会い、選手として活躍することで、障害のある若者がやりがいと生きがいを持って、たくましく生きてゆく感動超大作。もうだめだ!と思う時、リアルの登場人物たちを思い出し、まだまだあと5分!っと頑張れるようになった。逃げないという心情も大事な観点だとコミックから教わった。

リアルを熱量を込めて書き上げたことで、ライターの評価もうなぎ昇り。ブログで長文を書いていたことが安定した仕事量の確保に転じた。その後ブックレビューの仕事も軌道に乗り、契約3年の間で250作品もの長編小説や実用書のブックレビューを書き続けてこれた。

それもこれも、最初に長編作品リアルをしっかりと書き切り、出し惜しまず熱く書いたレビューが受けた結果だった。ここでも、わたしはコミックに救われたのだった。

コミックでの最も長い作品は、世界を股にかけて飛び回る画商のビジネスストーリー、ギャラリーフェイク(全32巻)は、3ヵ月という長丁場をフルスロットルで書き上げた。こんな風に、様々な仕事を知り、知識も蓄えて、主人公の人生を疑似体験し、仕事にも生かせるコミックを読むことの価値は大きい。

3、世の中の色を見るのにもコミックは最適

しかし、俗世間ではいいことばかりじゃない。わたしは日頃、営業職なのだが、客先で思わぬ売られたけんかを買いそうになることもある。

そんな時に思い出すのが、働きマン(著・安野モヨコ)の主人公、雑誌記者の松方弘子の相手を見据えるテクニックなのだ。要するに相手と同じ土俵に上がらず一瞬で気持ちを切り替えて、冷静に言葉を選んで話を進めるのだ。けんかを売られて、白・黒はっきりつけよう!なんていうのはビジネスじゃないのよ。仕事の現場は常にグレーなものなの。こんなこともみんなコミック先生が教えてくれた。

4、まとめ 大人こそ、もっとコミックを読もうじゃないか!

漫画論なるものが、ネット上にも紙媒体にも存在していることをご存知だろうか。いかに漫画の世界がディープかつ、知識に溢れた世界であることを延々と学術的に論じられているのだ。一度、ぜひご覧ください!再度、コミックに夢中になれるかも。

現在、コミック市場は電子書籍がほぼ市場を座巻しつつある。スマホアプリもいわずもがなだ。日本が誇るサブカルチャーの大文化になるだろう。

コミックがあれば幸せだったのは、随分昔・・・と、こんな人もBook Live!で電子書籍コミック読み放題を使ってお気に入りをみつけてみて。

人生には夢も安定も必要。それを叶えるのがコミックなのだ!

そうそう、ブックレビューライター、最後の作品は世界的クライマーの山岳救助物語 (著・石塚真一)だった。あまりに壮絶な日本の山岳救助隊にボランティアで参加する島崎三歩。彼の救助の技術と姿勢はすべての仕事に通じるプロフェッショナルだ。全18巻を全力で書き切った。もうこれでレビューライターは充分だと心底感じた思い出のコミックだ。

(全18巻)

夢を追うのも、安定を目指すのもすべて自分の人生。サブカルチャーの女王でありタレントの中川翔子さんの座右の言葉は、あなたの好きがあなたを救うで、10代の時、ひどいいじめにあっていた時、コミックなどのサブカルチャーに救われたのだそう。夢中になれることで、人生の道が開けたのだ。

やはり、コミックは偉大である。

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沈黙の春【選書・文化/環境問題】 

新型コロナウイルス感染に怯える2020年。今、自然からの警鐘をこの本で再確認している。

書籍原本

「自然は、沈黙した。いまはもの音一つしない。野原、森、沼地――みな黙りこくっている」「でも、敵におそわれたわけでもない。すべては、人間がみずからまねいた禍いだったのだ」文中より

2月~3月と、ひたひたと忍び寄るウイルスの恐怖を感じながら、日々外へと仕事に出ていた。仕事先のショッピングモールでは、マスクやトイレットペーパーの買いだめが怒涛のように起こり、群集心理に引きずられて、仕事の合間に行列に並んだ。

運よく100円均の30枚入りマスクを手に入れた時は、安堵する気持ちが沸き上がった。たかがマスクで?しかし、マスクがなければ営業の仕事には出られない。まず、1か月安心して働けるよう準備ができた。その後、会社から2度に渡る50枚入りのマスク配給には涙が出た。

3月24日からは、いよいよの自宅待機。4月7日の緊急事態宣言を受けて仕事のストップが決まった。長期休暇にもあたるこの不思議な期間を、今まで懸案だったブログを統合するサイトを構築し始めた。

そして、普段なかなか読めなかった名書もひも解き始めた。いつも仕事に出ている時間をそれにあてて、無駄に過ごさないように、徹底した自己管理を始めた。

沈黙の春(Silent Spring)は1962年に出版された。DDTを始めとする農薬などの化学物質の危険性を、鳥達が鳴かなくなった春という出来事を通し訴えた作品。 発売されて半年で50万部を超えた世界的な大ベストセラー。

SDGs、ESGなどの国連の取り組みや、気候変動や環境保護を訴えるグレタさん等、今では環境保護、気候変動への対処といったテーマが盛んに耳目を引いていることは間違いない。


著者レイチェル・カーソンは、この本で主にアメリカでの化学農薬の大規模な散布が、自然に破壊的影響を与えている実例数多く紹介し、警鐘を鳴らしている。


商務省、内務省での勤務で彼女自身が環境問題に関与したことから、実例は具体的な数値や、人間以外の動物、野鳥、昆虫、魚類と多岐に亘る生物への影響の具体例に裏打ちされて、大変説得力がある一書だ。


公害は高度成長路線に乗った世の中の、人的無差別テロと言い換えられるだろう。生物・植物と環境を切り離して論じてはならない。それを彼女は58年前に発信した先見性には敬意を払いたい。


改めて出所の分からないものの見極めと、成分の分からないものを口に入れないなど、情報リテラシーと判断基準の質的向上が必要なことと切実に感じた。新型コロナウイルスに対する対処への教訓ともなろう。

「沈黙の春」を久しぶりにひも解いて、アッ!と思い立ったこと。それはSNSとの付き合い方だ。SNSバーチャルの向こうには人がいる。考え方も生き方も違う無数の人たちが。

これまでわたしは、自分とは正反対の発言やヘイト、また遠巻きに人を揶揄するクセのある人はなるたけ遠ざけてきたし、おかしいと感じた投稿には、すかさずブロックをしていた。

今回、このブロックをすべて解除をした。それからいくつかのSNSで様々な整理をしてすっきりと総合ブログサイトを始められるように準備を進めたのだ。

今、まさにやらなければいけないことは、できるかぎり「純粋に」「素直に」なることだろう。そうでなければ、他人の意見や要請を受け入れられず、余計な知識や認識で目を曇らせて大事なことを見逃してしまうと感じたからだ。

時間がない!焦る気持ちをなだめながら、毎日、自分の人生の棚卸しをやり続けていた。あっという間の1か月だった。

緊急事態宣言の延長でしばらくはこの生活が続く。感染者数が圧倒的に多い東京がいつ宣言解除になるのか・・・まだまだ先は見えないが、ただ、少しずつ感染者数が減ってきてはいる。

だからこそ、希望を持ってこの豊富な時間を、今しかできないことに賢く費やそう。

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【レイチェル・カーソン関連書籍】

センス・オブ・ワンダー

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書くことで今すぐ仕事を得る!仕事をエンジョイできる文章術 【新刊案内】

5月15日、自身2作目となる電子書籍を発売しました。
https://mangabito.biz/?p=12219

今回の出版依頼を受けたのが2019年12月26日。はじめから文章術に関するテーマを頂きました。あらかじめ執筆テーマを提示されたことから、資料を集めたり文献を読む際も一切、迷う事がありませんでした。

年が明けて、資料や文献を集め始めた頃、新型コロナウイルス感染のパンデミックが起こり、感染予防から数多くの業種が瞬く間に廃業や閉店に追い込まれ、もちろん失業や内定取り消しを余儀なくされた人も大多数出ています。

少しでも、希望が持て役に立つ、仕事に結びつける書籍を書こう!と肚を決めて3週間で入稿を果たしました。敬体で読みやすく、きちんとした文章を書き切ることに専念しました。

タイトルの文章術とは、仕事を請け負うマインドを持つための内容に始終しております。言うなれば、上手く書くことより、伝えたいことが伝わる文章術のイロハです。

(株)Mangabito様のミッションに、役に立つから行動に移れる本という説明があります。その意味でも 読まれた方々がぜひ、何等かの形で内容を生かして頂けたら本望です。

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古暮 由実・コグレ ヨシミ