★2024年5月29日更新 Мiss Dior 【植物・エッセイ】

5月初旬、家の窓を全開に開けてひんやりとした床にゴロンと寝転ぶ。小さな我が家の庭から春の匂いが漂ってくる。

冬の間、縮こまっていた身体が少しずつほぐれていく。この季節特有の香りがことのほか好きだ。

ご近所の薔薇園もそろそろ終盤。

銀座のデパートで、何気に化粧品売り場を足早に通り過ぎようとした瞬間、あの懐かしい名作の香りをキャッチした。

Miss Dior 数十年来の再会。わたしの20代が詰まった特別な一品。

「愛のように香る」その宣伝文句に、当時、結婚前の女性たちはこぞって手首や足首にその香りを忍ばせるのが大流行した。

香りが、数十年前の若き記憶を思い出させてくれた。それは他愛もない事でけんかしてしまった女友達のこと。

けんかのきっかけは何だったのか思い出せないが、覚えているのは、その日、彼女もわたしもMiss Diorをつけていたことだけ。

けんか別れした直後、わたしはサンフランシスコに旅立ったのだが、彼女との仲たがいが原因で気持ちは塞いだまま。でも、仲直りがしたい!とサンフランシスコのデパートで、Miss Dior のミニボトルを買い、急いで帰国した。成田に到着後すぐに彼女に電話を入れた。もちろん、一つ返事でデートの日が決まった。

いつものカフェで、声も出さず、手の平にMiss Dior のボトルを乗せた。お土産よ・・・。

女同志の仲直りにもMiss Dior は最強だった。

誰でも、自分を想ってくれる同性がいることは心の安心。

そして、記憶をよみがえらせる香りも。