スターバックス成功物語~一杯のコーヒーが生んだ奇跡【書評・ワークスタイル】

アメリカ映画のワンシーンにスターバックスコーヒーが登場したのは、いつだったのだろう。

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ユーガットメールではトム・ハンクスとメグ・ライアンの鉢合わせた場所がスターバックスだった。プラダを着た悪魔では、メリル・ストリープからコーヒーを買って来るように指示されて会社の前にあるスターバックスで、フロアの人数分を買うアン・ハサウェイ。

メグの手にも、アンの手にも、あの紙カップが持たれている。企業ロゴにギリシャ神話のセイレーン(半魚人)を深い緑で描く印象的なデザイン。2年おきにセイレーンのデザイン刷新も行われているのだそうだ。

誰の目からみても印象的、この企業ロゴの持つ意味は多大だ。外で持ち歩くコーヒー。そのスタイルがなにしろカッコいいし、紙カップの印象的なデザインで、広告効果は絶大。瞬く間に世界中に広まった一杯のコーヒー革命だった。

アメリカ映画の最強の小道具は車でもハンバーガーでもなく、スターバックスコーヒーに様変わりした1996年。その年に満を持して出版された本。スターバックス成功物語だ。まず、概要をレビューをしよう。

● 本書の概要

著者であり、世界規模で展開を続けるコーヒーチェ―ン、スターバックスの会長であり、最高経営責任者(CEO)のハワード・シュルツ氏は、1982年、一流企業で高給を取りながらも、突如企業を退職してしまう。そして、たった5店舗の姉妹店を抱えるシアトルの小さなコーヒー小売り会社に転職した。それがスターバックスだ。

そして、5年後の1987年、スターバックス最高経営責任者(CEO)に懸け上げるのだ。当時、まだ姉妹店6店舗の地方企業から全国規模の大企業に育て上げる。

単なる一企業の成功過程を書き表しただけでなく、ビジネスに対する彼独特の持ち味というのか、こだわりや伸びやかな柔軟性がもたらすバランス経営などは必読だ。

現在、ビジネスの第一線で活躍中のパーソンにとっても教科書となりうるマインドの高い書籍である。彼の持つ人生観、起業をする理由や夢の追及など興味が尽きない良書なのである。

● スターバックスの原点とは

スターバックスの原点は二つある。一つは1971年に創業された初代スターバックス社。この時の企業理念は、最高級のコーヒーに情熱を注ぎ、一人ひとりの顧客にコーヒーの概念を啓蒙することに専念するというものだった。

そして、もう一つの原点は、著者のシュルツ氏がスターバックスに持ち込んだビジョンと価値観である。それは、負けじ魂と全社員が共に勝利者となることを断固たる決意で目指すとい強い理念であった。

彼はコーヒーに自分の夢を懸けて、ことごとく不可能を可能にすべく挑戦を開始した。常に斬新なアイデアで目標達成を成し遂げたのだ。

ただ、彼がスターバックスに出会う10年も前から、すでに地方都市での商売は繁盛していたのだ。だから、創立者にとってはコーヒーの品質がすべてだったのだ。

このことから、スターバックスの原点は二つあるというシンプルな指標を掲げたのだ。どんな企業でも、何を基盤にするかは議論を呼ぶ一番大切な部分だろう。

現在、スターバックスが取り入れているコーヒーの決めては、創立者が魅せられた深煎り焙煎された豆の独特の風味を基盤に置いている。その独特の風味にたどりついたからこそ、どこのコーヒーチェーンよりもひと味もふた味も違う本物になれたのだ。

● 著者 ハワード・シュルツ氏の父親の仕事

この書籍の冒頭には、シュルツ氏の生い立ちが事細かに書かれている。少しショッキングな場面を文中から引用する。

(文中から)当時、7歳だった僕の父が職場で足をくじいた。母親が友達と無心に遊ぶ僕に「パパがケガをしたから急い帰って」と。

僕の父は、足にギブスをはめたまま、その日から一ヵ月も家に引きこもるようになった。父親が働かないとこの一家は収入が途絶える。実は、今までもこういったことは何回もあった。

父の最後の仕事は、おしめの配達とおしめを回収するトラックの運転手だった。何ヵ月たっても身体に沁みついた臭いは酷くて汚い。本当に劣悪な仕事だと愚痴をこぼしていた。しかし、ケガや病気で休みがちな父は、その会社を解雇された時に、ひどく落ち込んで、もう一度あの仕事がしたい!と懇願していた。

その時、母は7ヵ月の身重で働きに出るのは無理だった。僕の家はすべての収入を絶たれて、ひどいことに健康保険も無く、失業手当もなく、頼れる人など皆無だった。

ことごとく、運命に裏切られてきた父親。父親は負け犬だった。知っている限り、ブルーカラー労働者として、トラック運転手、職工、タクシー運転手など。もちろん持ち家など持てるはずはない。子どもの頃住んでいたのはブルックリンの低所得者専用住宅だ。

年頃になった僕は、ふがいない父親との衝突が絶えなくなっていった。どうしてもっとちゃんとやれないのか?と。もっと努力すればできないはずはないだろうと。

しかし、父の死後、わたしは不当に父を裁いていたことに気づいた。

組織に適応しようと影で必死に努力をしたのであろうが、組織に無情に踏みにじられた父。まっとうな待遇も受けられず、自尊心を傷つけられて心を失ったことで、人生の落とし穴から抜け出すことも、生活を向上させることもできなかったのだ。

そのぐらい自尊心というものは大切なものだ。

そして、何より悲しかったことは、父が自分の仕事に生きがいと誇りを持てなかったことだ。

少年時代のわたしは、自分が経営者になるとは夢にも思ってはいなかったが、もし何かできる立場になった時には、決して人を見捨てるようなことはしない!と固く心に誓った(文中より)

この冒頭のプロローグには、世界的大企業の最高経営者が語る話は何ひとつない。あるのは、小さな頃からティーンエイジャーとなるまで見続けてきた父親の生き様から、自分の将来像を描き、希望を見出すシュルツ少年の話だけだった。

もちろん、本論では、経営者バリバリの起業理念や挑戦欲を湧き立たせるテキストとなっているが。

親の背中を子どもはちゃんと見ているのが良くわかる。プロローグで、極貧の生い立ちを書き切った、シュルツ氏の強き決意はこんな風に語られていた。

~人の気づかないところに心を配り、どんなリスクも恐れず、誰よりも大きな夢を抱き、不可能に挑戦する~

この書籍は、仕事中心のお堅い話ではなく、親と子、人生とは、人を思いやるとは・・・などビジネスだけでなく、あらゆる人生に共通する絶対法則がふんだんに語られている。しかも平易な文章がとても読みやすい。ちょっと古い本だが、今、あらゆる立場の人に読んで頂くと良い影響があると感じた書籍だった。最後にもくじを表示する。

マイ・コースター

【もくじ】

プロローグ

Part1 コーヒーとの出会い

Part2 新しいコーヒー文化を目指して

Part 3 起業家精神の見直し

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