2016年10月。わたしはカリフォルニアワイン協会の会員となった。会員の特権でカリフォルニアの名立たるワイナリーのブティックワイン約600種が一堂に会しての大試飲会(グランドテイスティング)が東京で開催され、意気揚々と参加した。
バイヤーズデーには、西海岸の56社からなるメーカーが来日して、あの手この手で輸入代理店契約を交わすのが目的だ。
新参者のわたしはチーズとアイフォン片手に飲み、喰い、撮りを繰り返す何ともせわしない様相。それでも飲みながら聞かせてもらった生産者の話は、ワイン造りに対する情熱や奥深さに溢れていた。
気に入ったブティックワイナリー2社と話をして、いつでもナパへ来て!と言って頂き名刺交換もした。これで将来はブティックワインの代理店もできるかもしれない(笑)※対話は英語オンリー通訳付き。
この日、生まれて初めて、2万円以上もする高級ワインばかりを数十本ほど試飲でき、もう死んでもいいくらい幸せだった。高級ワインといえば、わたしにはカリフォルニアワインなのだ。
この試飲会から一年後、あのナパバレーの自然大火災が起きた。数々のワイナリーが焼失。あれから、もう日本では簡単にブティックワインを頂けなくなった。しかも今年は新型コロナウイルス感染の大流行。もう海外へも出かけにくくなってしまった。
● ブティックワイン&ブティックワイナリーとは
ブティックワイナリーとは、1970年代のアメリカ・カリフォルニア州で使われるようになった言葉で、少量高品質のワイン造りを目指しているワイナリーを指す。
ブティックワイナリーのブティックという言葉はフランスの「小さな店」を意味するブティックから由来しているとされている。
家族経営であることが多く、多くのカルトワインがこのブティックワイナリーから生み出されている。例えば、ナパバレーのオーパスワンなど。
1970年代までのアメリカのワイナリーでは量産型のワイン生産が一般的だったが、ロバート・モンダディに代表される、生産規模を最小限に抑えて高品質のワイン生産を追求する動きがカリフォルニア州、特にナパ・ヴァレーのワイナリーで見られるようになったのだ。
● カラダに優しいパゥエリタル・ワインとは
単一品種で一切混ぜ物のないもの~サンフランシスコ近郊のソノマ、ナパ、モントレーの3箇所のブティックワイナリーのバリウェタルワインは、おもにアメリカン・オークという固い木樽に詰められて熟成される。
● パゥエリタルワインに欠かせないアメリカン・オーク
ホワイトオークとも呼ばれるアメリカンオークは木目がこまかく、バニラ香をもつバニリン香が発生しやすい木材。
アメリカンオークでの熟成は、スパイスのようなニュアンスがつくのが特長。渋味とは違った刺激はマリアージュの幅を広げてくれる。
ココナッツやディルシード(刺激的な芳香で、ピリッとした辛味をもったスパイス)のような風味があり、価格も新樽で3~4万円とフレンチオークよりも安い値段で購入できるのがアメリカンオークのメリットだ。
● カリフォルニアワインとの出会いと最も合う料理の紹介
さて、わたしとカリフォルニアワインとの出会いは35年前の新婚旅行先のサンフランシスコはモントレー。どんな料理にも合わせやすく、単一醸造の所以だろうか、かなり飲んでも一切悪酔いはしなかった。
その時から一気にカリフォルニアワインの虜になった。
さて、最もカリフォルニアワインに良く合うきのこのスープを村上龍氏の作品で紹介する。作品の中ではオーパスワンに合わせていた。
● きのこ類の軽いクリームスープ エリタージュ風
マッシュルームとセージをバターで炒め、ゆっくりと煮だして濾したものに、生クリームを加えて火にかけ塩で味つけをし、再び濾してスープを作る。
さらに別に炒めておいたジロル、しめじ、トリュフなどのきのこ類をパイで包み、オーブンで焼いた物を加える。
パイ皮を割るとプーンときのこの香りが口いっぱいに広がる。
料理小説「はじめての夜 二度目の夜 最後の夜」 村上龍・著(集英社)