★2024年8月17日更新 『ナイルパーチの女子会』柚木麻子・著(文藝春秋)【書評・文化】

【ブログ新規追加448回】

ねえ、ナイルパーチって魚知ってる?

スズキ目アカメ科アカメ属の淡水魚。淡泊な味で知られる食用魚だが、一つの生態系を壊してしまうほどの凶暴性を持つ。要注意外来生物だ。

回転ずしで使われている大半の白身魚は偽装魚である。偽装魚とは、味や調理によって使い勝手のよい安価な食材になり変われる代用魚のことである。

例えば、真鯛→ティラピア、ひらまさ→ナイルパーチ、あいなめ、えんがわ→アメリカナマズ などetc (資料先 / 回転寿司店はアメリカナマズとナイルパーチを大半の白身魚として出す)

ナイルパーチの女子会』柚木 麻子・文春文庫

第二十八回山本周五郎賞&第三回高校生直木賞作品だ。

女の友情とはいったい何なのか?を描いた問題作。(2015年3月発刊)

• あらすじ

父親と同じ大手商社でバリバリ働く主人公(志村栄利子・30歳・独身)海外出張も多く多忙な栄利子のひそかな楽しみは、主婦ブロガーおひょうさん(丸尾翔子・30歳・既婚/夫と二人暮らし)の書く「ダメな主婦日記」を毎日読むことだ。

おひょうさんの紹介する回転寿司やコンビニパンやお菓子の新商品を買い込み食べながらブログを読むのが楽しくて仕方がない。

キャリアウーマン栄利子とは全く違う平凡な主婦おひょうさんのどーでもいい日常を垣間見て、それはそれはいいストレス解消になったのだ。

いつしか、おひょうさんのブログの熱心な読者となる。

さらにおひょうさんが栄利子と同じ街に住んでいることを突き止めた。

その後、ブログで知ったおひょうさん行きつけの店で二人は偶然の出会いを果たしそこから意気投合する。

しかし、それは偶然ではなく、栄利子のストーキング癖によって実現した出会い。

一旦は意気投合した二人だったが、おひょうさんは栄利子の執拗な待ち伏せに辟易し、彼女をストーカーと認定する。

女同志の蜜月は予想以上にあっけなく破綻した。

それは、他人との距離をうまくつかめない栄利子の一挙手一投足が原因でおひょうさんを遠ざけてしまったのだった。

だが、執拗におひょうさんに執着する栄利子は、まるでストーカーまがいの行動に度々打って出てしまう。

昔、中学生時代にも、幼馴染みの圭子から疎ましがられたことが許せず、ストーカーじみた行為を起こし、信じられない噂(圭子が援助交際しているというウソを流す)となって圭子の将来を潰した経験を持つ栄利子なのだ。

普段は、美しく優秀な商社勤めのOL栄利子。しかし、自分が避けられたり受け入れてもらえなくなったりすると逆上し、相手を食い尽くす狂暴な癖を持っていた。

まるで、偽装魚のナイルパーチみたいだ。スカンジナビア湖にたった一匹のナイルパーチを入れた時、あっという間に湖の生態系がナイルパーチの食い荒らしにより変わってしまったのだ。

商社でナイルパーチの輸入に携わる栄利子はナイルパーチの生態を勉強し、まるで女同志の友情のようだと反芻した。

何がなんでも、おひょうさんは私のものだと言わんばかりにストーキングを繰り返す栄利子はまるで狂暴なナイルパーチそのものだ。

執着する栄利子は悩みを相談した同僚の男と寝たことが婚約者の派遣女子・高杉真織にばれ、とんでもない約束をさせられてしまう。


一方、おひょうこと翔子も実家に問題を抱え――。

作家である重松清氏の解説・・・「本作『ナイルパーチの女子会』は、柚木麻子さんがデビュー以来追い求めてきた主題の一つの到達点であり、その後の柚木さんが展開する文学への結節点でもある。」

• 読後感

同性の友だちができない栄利子と翔子。ブルーの表紙、ふわふわしたイラストからはまったく想像できない女のドロドロ執着劇だ。

かなり狂気の世界なのに、誰にでも経験のありそうな女の「取った,取られた」から始まる当たり前の日常を巧みな言葉で表現する柚木麻子氏。

身近でありながら、登場人物たちが言葉を荒げる様は狂喜じみていて、何度も途中で読むのを止めようと思わせるが、結局栄利子と翔子の近々の将来が知りたくて最後まで読んでしまった。

ストーキングや社内いじめや家庭内介護のすさまじさなど、恐ろしくもあり身近でもある内容に目が離せなくなってしまったのだ。

女の持ち合わせている深層心理をえぐる内容が息苦しい。この作品を再度読み返そうとは思わない。

普通の女子がサイコだった話。

最終盤に差し掛かる頃、付きまとわれていた翔子も同じように、NORIという女にストーキングしてしまう。

誰もが栄利子になりうるのだ。

それまで、築き上げてきた世界をいとも簡単に崩す怖ろしい女の狂気劇だった。

もう、当分は回転寿司店へは行けない(笑)

「心がえぐられすぎてつらい」